ぶよっとした感触の持つ可能性ーボラード病
存在しない世界は本当にどこにもないのか
初めての作家さん
佐藤優さんの本の中で紹介されていました。吉村萬壱という名前だけは知っていました。クセのあるタイプの本を書くらしい程度の認識だったので、正直佐藤さんのおすすめでなければ読まなかったです。
以下ネタばれです。
311以降の世界がモチーフになっているのは読んだ方なら感じると思います。これはいわゆるディストピア小説というのでしょうね。
小学生の日記の体で始まり、何もかもすっきりしないそして説明も何もされない架空の町で起こる奇妙な人々の平凡を装った奇妙な日常。絆、絆とお題目のように唱える大人達とビリビリと音が聞こえてきそうなくらいに張り詰めて生きている母親。
でもアマゾンのレビューにあるようにこれは311以降の世界というのは少々違うような。佐藤さんは「この本を読んでファシズムについて書く」ということを課題にしていました。この本は確かに特定の出来事に対する比喩ではなくて、作者はもっと漠然とした得体の知れないモノについて書こうとしたのではないかな、と私自身は考えました。
臭いお刺身や腹痛のあまり下血する母親など放射能汚染を思わせる描写もあり、作者が“そのこと”を意識していないとは言いません。しかし私はもっと何かぶよぶよした形容しがたい感触を読者に感じさせたかったような気がしました。そしてそのぶよぶよが本を読んだ人に賛否両論な意見を持たせるのです。
終盤が多少駆け足な展開になっており、それはそれで悪くはないと思いましたが、できれば最後をもう少しじっくり書いてほしかった。そうすればもしかしたらこの小説が持っている奇妙な力と可能性をより強く感じることができるかもしれないのに、と少しだけ残念に思いました。